1本の電話

 "BCG ROCKERS"を解散後、"愚図"を始めて2年くらい経った頃だったろうか。

 オレはいつものように、読みかけの本を片手にベッドにもぐり込んだ時だった。

 電話が鳴った。 Tさんとヨーコさんの、Tさんからだった。

「・・・???」

 それまで連絡先は教えていたようには思うが、

 電話をもらったりした記憶はなかったので少し戸惑った。

 「どないしはりましたん・・・?」

 不意の電話に、確かこんなふうに切り出したように思う。

 電話をかけてきた事に申し訳無さそうに挨拶のやりとりはしてくれたものの、声のトーンはとても重く、黙り込む。 

 そこでオレもハッとする。

「まさか・・・!?」。

「癌(がん)、再発しよったんや・・・、前から言うてたように今度はもうあかんて・・・。」、

 Tさんの言葉に心臓がバクつき出した。言葉が出ない。

 

「え!?」とつぶやくように返しただけで、ベッドから上半身だけを起こした体勢で、

ただ震えるだけだった。

 その後、どんな会話をして、どのくらいの時間どんな話をして電話を切ったのか、あまり覚えていない。

 そのくらい頭の中はぶっとんでしまっていた。

 

 ただ大事な事は覚えている。あとどれくらい生きられるのか? という質問に、

 はっきりとはわからないが、

 余命数カ月かも・・・、1年もつかどうか・・・と言われているという。

 そして、本人には別の病気だと言ってあり、事実を告知していないので、オレらから連絡はしてこないでくれ、とお願いされた。

 

 それは、ヨーコさんも、「もし再発した時は・・・」のオレ達との約束を覚えているので、

急にオレらから連絡があったりすると、気づかれるから・・・という配慮からだった。

 

 さらに、オレ達にとってはお詫びのしようのない事実も知った。

 "BCG ROCKERS"の解散以降も、"愚図"のライブ会場に顔を見せてくれていた時は、とても明るく、楽しそうにオレ達に笑いかけてくれていたのだが、

 Tさんに聞けば、やはり、唯一の"楽しみ"であり、一番の"特効薬"だった"BCG ROCKERS"が解散してしまった事は、ヨーコさんにとってもの凄くショックで、大きな出来事で、

 解散以降すっかり元気がなくなり、不調をうったえる日が段々多くなって来ていたという・・・。

 それでも、"愚図"のライブに来ると、元気になり、ライブの余韻のあるうちは、また体調も良くなったりしていたらしい・・・。

 オレは初めて"BCG ROCKERS"を解散させた事を悔やんだ。

 

「もし再発して、もうダメだって時は、病院に行って最期の歌を聴かせる・・・」、

 果たす時が来てはいけなかった約束を、果たす事を考えなければならなくなってしまった。

 Tさんによると、まだ再発を発見したばかりで、これから闘病生活に入るという。

 あまり悠長な事は言ってはいられないが、時間はまだある。

 まだ本人に告知していないので、まだ病院にかけつける訳にはいかない。

 そこで、Tさんにお願いをした。

 本人に告知をした場合と、病状が悪化して危なくなった場合、その時は 必ず連絡をしてもらうように頼んだ・・・。

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