Tさんとヨーコさんの存在はやはりストリートライブのみならず、ライブハウスの客席においても、ひときわ目立っていた。
いつも最前列にくるわけではないのだが、後ろの隅っこの方にいるわけでもない。
いつも前列で一番激しく盛り上がっている若いオーディエンス達の波のすぐ後ろで、オレ達メンバー皆の姿を観れるすき間にいた。
もちろん、全曲覚えて口ずさみながら、キメの場面では、他のオーディエンス達と同じように拳を上げてくれていた。
本当に楽しそうに・・・。
次第にオレ達も、路上ライブでの成果をあげれるようになり、閑古鳥が鳴いていたライブハウスでのライブの客席もそこそこ見れるようになってきていた。
そしてホームグラウンドにしていたライブハウス、今は無き「BLOW DOWN」の大晦日から元旦にかけてのオールナイト・ライブに出演した時、ちょっとしたエピソードがあった。
それまでのライブで、その日のライブの告知MCをした時に、
「正月やからお年玉の差し入れ待ってるぜ〜」みたいな事を冗談で言った事があった。
すると、本当にTさんとヨーコさんからお年玉が届いた・・・。
本番終了後、メンバー全員あわてて「BLOW DOWN」を飛び出して二人の姿を探した。
そして近くの駐車場で、車に乗り込んで帰ろうとする二人をつかまえ、
「しょうもない事言うてすみません、冗談です。これは受け取れません・・・」。
返そうとしたものの、やはり受け取ってはもらえず、
「いつもすごく楽しませてもらってるから・・・、これくらいの事させて。ありがとう・・・。」と逆に礼を言われてしまった。
若い人達に混じってTさんとヨーコさんのような世代の人が、オレ達みたいな者のライブに来てくれるだけでも有り難いのに、
本当に申し訳なくて恐縮した・・・。
それからしばらく経って、一度、お礼もかねて、
ストリートライブの帰りにオレ達が必ず行く店に 二人を食事に招待した。
ゆっくり言葉を交わすのはこの時が初めてで、色んな事を聞かせてもらった。
Tさんとヨーコさんは、いつも連れ添っていて夫婦同然なんだけども夫婦ではない事・・・、
ヨーコさんよりもTさんの方が少し若い事・・・、
はじめてオレ達のライブを大阪城公園で聴いた時、「December Road」と「R&Rティーチャー」のサビだけを覚えていて、帰り道の車の中で二人で歌いながら帰った事・・・、
そして、衝撃の事実もこの時に聞いた。
ヨーコさんはオレ達と出会う寸前まで、ある病魔におかされ、闘病生活を送っていた。
その病名は「癌(がん)」。
決して成功の可能性の高く無かった摘出手術を終え、某神社にお礼参りに行った帰りに散歩がてら立ち寄った大阪城公園で我々を見かけたという。
手術は一応成功し退院はしたものの、再発する可能性もあり、通院と安静の日々だという・・・。
さらに、「今度再発したら、もう助かりません・・・」とも言われていると言う・・・。
そんな状態で、オレ達のライブに毎回欠かさず足を運んでくれていたと知り、
本当に胸を打たれた。
けれど、Tさんとヨーコさんの言うには、オレ達とオレ達の音楽と出会って以降、医者も驚くほどの回復をみせ、体調も安定しているという。
ヨーコさんの病状で気をつけないといけない事は、ストレスを感じる事は厳禁で、
大事なのはリラックスできて、楽しむ事だと、医者にも常々言われていたらしい。
そして、オレ達"BCG ROCKERS"がヨーコさんの唯一の楽しみになり、ずっと横で見続けて来たTさんの言うには、オレ達のライブに行くようになってから、体調の不調をうったえる事がなくなったと言う。
ヨーコさんは言ってくれた。
オレ達の歌詞、メロディ、サウンドが好きなのは勿論の事、オレ達メンバー全員の人間性が好きだ・・・と。
特に、いつもどんな時も手を抜かない全力投球の姿勢と、うらやましいくらいのメンバーの仲の良さが伝わって来て、すごく元気な気分になれる、オレ達が最高の薬だと・・・。
オレ達もこれまでに、紆余曲折、試行錯誤をくり返し、自分達の音楽、やり方、生き方に、迷いが無いと言えば嘘になる。
しかし、本当にこの時だった。自分達のやってきた事に確信がもてたのは。
ヨーコさんの目から見たオレ達のその"姿勢"みたいなもんを、ヨーコさんはヨーコさんなりに、その時の自分に必要なモノとして取り込んでくれていたのだろう・・・。
その後も何度も、場面場面で、ヨーコさんの口から
「いつだって全力投球やもんね・・・」という言葉を聞いた事があった。
そしてこの時の席で、ヨーコさんは「どうしても、聞いてもらいたい願いごとがあんねん・・・、いい?」と、
「もうやめとけよ〜」と 遠慮して制するTさんに一瞬ためらいながら言い出した。
当然「何でしょう?、言うてみて下さい・・・」とオレ達は返した。
ヨーコさんからの願い事は3 つだった。
ひとつは「BCG ROCKERSをやめないで、BIG STARになって・・・」、
そして もうひとつは「メンバー全員、今のままずっと仲良しでいて・・・」。
この時点でこの2つは、紆余曲折したものの、ようやく軌道にのり始めたバンド活動と現状に、一点の曇りもなかったオレ達は笑いながら即答した。
「やめないですよ〜。ここまでやってきたんですから、絶対BIGになってみせますよ。」さらに
「オレらメンバーはファミリーですから、一生つきあっていきますよ。」と約束した。
あまりの即答にヨーコさんも、「本当に〜?、もし約束破ったら?」と言うので、
「大丈夫です。もし約束破るような事があったら、こんなオレで良かったら煮るなり焼くなりぶん殴るなり、好きにして下さい」と返した。
そして最後のひとつ。
それは、もしヨーコさんの病気が再発した時・・・、
もしそれで入院する事になれば、もう2度と出る事は出来ないだろうから、
その時は病室に来て最後に1曲聴かせて欲しい・・・、
病室が無理なら、病室から見えて聴こえる所で・・・。
オレ達は少し怒ってみせて返した。
「そんな縁起でも無いアホな事言わんといて下さい。再発なんてしません!!。そんなありえへん約束は出来ません・・・」。
しかし、その時のヨーコさんの決してジョークや悪ふざけではない本当に真剣なまなざしを見た時、
きれいごと抜きに向かっているヨーコさんの"真実(ほんとう)"と"覚悟"みたいなもんが見え、
答え直した。
「わかりました。もし・・・、もし、そんな事になったら、必ず連絡下さい。ヨーコさんの為に歌いにいきますから・・・」と。